安城市に土地を持っていて、「売ればまとまった資金になるが、できれば土地は手放したくない」「店舗や工場などに長く貸せるなら、その方がよいのでは」と迷っている地主の方もいるでしょう。

結論からいうと、売却と事業用定期借地は「どちらが得か」だけでは決められません。

今後その土地を使う予定、売却した場合の手取り額、借地した場合の地代収入、契約期間、借主となる企業、固定資産税、相続まで比較する必要があります。

特に安城市では、企業立地の推進や工業用地の整備が進められている一方、市街化区域・市街化調整区域、用途地域、道路条件によって事業用地としての使いやすさは大きく異なります。安城市は企業立地推進計画を設け、北山崎地区でも工業用地造成を進めていますが、これは安城市内のすべての土地に事業用需要があるという意味ではありません。

この記事では、安城市の地主が「土地を売る」「事業用定期借地で貸す」のどちらを検討すべきか、実務上の判断基準から整理します。

月極駐車場やアパートを含めた土地活用全体を「年間手取り」で比較したい方は、安城市の土地は売る・活用どちらが得?売却・駐車場・アパートを年間手取りで比較をご覧ください。事業用定期借地を検討する場合は、契約期間・借主・中途解約・原状回復などの契約条件まで確認することが重要です。

先に結論|「売却価格」と「年間地代」だけを比べてはいけない

土地を売るか事業用定期借地で貸すかを考える場合、最初に比較したいのは次の2案です。

比較項目売却事業用定期借地
土地所有権手放す地主が保有
収入売却時にまとまった資金契約期間中の地代
契約期間売却完了まで原則10年以上50年未満
将来利用原則できない契約終了後に再利用可能
固定資産税売却後は買主負担地主が引き続き負担
土地管理売却後は原則不要契約・借主の管理が必要
主なリスク将来の土地価値を享受できない借主撤退・滞納・原状回復など
相続土地ではなく売却代金等として残る土地を保有したまま相続する可能性

今後使う予定がなく、資産を現金化したい場合は売却を検討しやすくなります。

一方、

「土地そのものは子どもに残したい」
「10年以上使う予定がない」
「信用力のある事業者から具体的な出店・利用提案がある」

という場合は、事業用定期借地も比較する意味があります。

重要なのは、売却査定だけ、土地活用提案だけを見るのではなく、同じ土地について両方の数字を出して比較することです。

事業用定期借地権とは?

事業用定期借地権は、店舗・事務所・工場など、専ら事業に使用する建物を所有する目的で土地を貸す定期借地権です。

国土交通省の整理では、期間は10年以上50年未満で、居住用建物は対象になりません。また、契約は公正証書によって行う必要があります。

10年以上30年未満と30年以上50年未満では法律上の扱いが少し違う

借地借家法第23条では、

・10年以上30年未満
・30年以上50年未満

で規定の仕方が異なっています。

30年以上50年未満の場合は、契約更新をしないこと、建物再築による期間延長をしないこと、建物買取請求をしないことなどを契約で定めます。

契約期間だけを決めて簡単な土地賃貸借契約を交わせばよいわけではありません。

公正証書作成を含め、契約内容について専門家への確認が必要です。

青空駐車場や資材置場なら事業用定期借地になるとは限らない

ここは地主が混同しやすいポイントです。

事業用定期借地権は、事業用建物の所有を目的とする借地権です。

そのため、建物を建てずに青空駐車場や資材置場として使用するだけなら、通常は同じ仕組みではありません。

財務省の国有地貸付制度でも、コインパーキングや資材置場等の貸付けと、スーパー・コンビニなどの事業用定期借地権による貸付けを区別しています。

「法人に貸す土地=事業用定期借地」と考えないことが大切です。

売却は「土地を手放す代わりに資金と自由度を得る方法」

土地売却の大きな特徴は、所有権そのものを買主へ移転することです。

売却が完了すれば、原則としてその土地の固定資産税、管理、草刈り、将来の契約管理などから離れられます。

特に、

・子どもが土地を使う予定がない
・相続人が複数いる
・資産を分けやすくしたい
・まとまった資金が必要
・長期間の賃貸借契約を次世代に引き継ぎたくない

という場合は、売却も有力な選択肢です。

ただし、売却価格がそのまま手元に残るわけではありません。

個人が土地を売った場合の譲渡所得は、原則として、

売却収入-取得費-譲渡費用-適用できる特別控除

によって計算します。土地・建物の譲渡所得は他の所得と分けて計算する申告分離課税です。

相続で取得した土地などでは取得費が分からないケースもあるため、売却判断では「査定価格」ではなく税金や諸費用を考慮した手取り額を見ることが重要です。

税額は取得時期、取得費、所有期間、特例適用の有無などで変わるため、具体的な判断は税理士等への確認が必要です。

売却と定期借地を比較するときは5つの数字を見る

1.売却した場合の手取り額

最初に確認するのは査定価格ではありません。

・想定売却価格
・仲介手数料
・測量費
・解体費
・その他売却に必要な費用
・譲渡所得税等

を整理したあとの手取り額です。

土地を3,000万円で売れるから「3,000万円と地代を比較する」という計算では正確ではありません。

2.定期借地にした場合の年間手取り

借地では、

年間地代-固定資産税等-地主側の負担費用

を確認します。

土地の貸付けによる地代などは、個人の場合、原則として不動産所得になります。

また、土地そのものの貸付けは、一定の例外を除き消費税では非課税取引とされています。

ただし、多額の権利金など一時金を受領する契約では、内容によって税務上の扱いが変わる場合があります。

契約締結前に税務確認をしておく方が安全です。

3.何年間土地を動かせなくなるか

例えば20年間の事業用定期借地を設定すれば、その間に、

「やはり子どもが住宅を建てたい」
「売却して資金化したい」

と思っても自由にできるとは限りません。

土地を残せることはメリットですが、同時に長期間用途が固定されることでもあります。

そのため、

「将来土地を残したい」

だけでなく、

「少なくとも契約期間中は自分たちで利用する可能性が低いか」

まで家族で確認しておく必要があります。

4.借主企業が途中撤退した場合のリスク

事業用定期借地では、建物を借主側が所有する形が基本です。

地主側で建物を建築する方式と比べれば、建築資金を負担しない設計にできる点はメリットです。

ただし、借主が経営不振や事業再編などで撤退した場合、

・未払い地代
・残った建物
・解体
・原状回復
・保証金
・契約上の地位の譲渡

などが問題になる可能性があります。

「大手企業だから大丈夫」と考えるだけでは不十分です。

契約時には、借主の信用力だけでなく、中途解約、債務不履行、原状回復、建物撤去、保証に関する条件まで確認する必要があります。

5.契約終了後に戻ってくる土地をどう使うか

20年後、30年後に土地が返還されても、その時点の土地需要や家族構成は現在と同じとは限りません。

したがって、

売却案=現在の売却手取り額

だけではなく、

借地案=契約期間中の地代収入+契約終了後に戻る土地の価値

という視点で比較します。

長期間の収入を単純合計するだけでなく、本格的に判断する場合は将来収入を現在価値に換算した収支比較も有効です。

売却と事業用定期借地はどちらに向いている?

状況比較しやすい選択肢
今後土地を使う予定がない売却を含めて検討
まとまった資金が必要売却
相続人間で資産を整理したい売却を含めて検討
土地そのものを次世代へ残したい定期借地を比較
10年以上自己利用する予定がない定期借地を比較
具体的な企業から借地提案がある定期借地と売却を同時比較
事業用地として使いにくい売却・別の活用を比較
将来用途が決まっていない長期契約前に慎重な検討が必要

事業用定期借地は、「土地を売らずに収入が得られるから売却より優れている」という制度ではありません。

反対に、「土地を貸すより売った方が簡単だから売却が正解」というものでもありません。

地主本人の年齢、家族構成、相続予定、資金需要まで含めて判断する必要があります。

安城市だから確認したい「事業用地として使える土地か」

安城市では企業立地を政策として推進しており、安城北山崎地区工業用地の造成なども進められています。市の企業立地推進制度では、工業地、専用工業地、産業系拡大市街地圏域なども位置付けられています。

一方、同じ安城市でも土地利用条件は大きく違います。

2026年7月時点の安城市の用途地域には、住居系だけでなく近隣商業、商業、準工業、工業、工業専用地域などがあります。

そのため、事業用定期借地を考えるなら最低でも、

・市街化区域か市街化調整区域か
・用途地域
・建てられる建物用途
・前面道路の幅員
・大型車両の進入可否
・間口
・敷地形状
・上下水道
・造成の必要性
・周辺の住宅との関係
・地区計画
・都市計画道路
・農地の場合は転用等の可否

を確認します。

安城市では「あんじょうマップ」で都市計画情報を閲覧できますが、市も掲載情報は参考情報であり、最新・正確な情報は担当課へ確認するよう案内しています。

国道23号や幹線道路に近いだけで事業用地になるわけではない

企業立地推進計画では、国道23号インターチェンジ周辺などを含めた産業立地を進めています。

しかし、

「23号に近い」
「大きな道路沿い」

というだけで店舗・物流施設・工場が建てられるわけではありません。

市街化調整区域、農地、道路幅員、開発許可、敷地形状などによっては、想定する事業利用が難しい土地もあります。

特に市街化調整区域では、用途や開発許可の確認を先に行う必要があります。安城市には一定の要件を満たす工場・研究所について都市計画法34条12号に基づく制度がありますが、対象業種や区域などの条件があります。

安城市でも実際に事業用定期借地が使われている

事業用定期借地は理論上だけの土地活用方法ではありません。

安城市の中心市街地拠点整備事業では、JR安城駅を中心とする市有地の民間施設について、事業用定期借地が採用されています。

もちろん、市有地で採用されているから個人所有地でも同じ条件で成立するという意味ではありません。

ただ、

「土地を売却せず、一定期間民間事業者へ貸して事業利用してもらう」

という方法自体は、安城市内でも実際に使われている土地利用手法です。

固定資産税は地主側に残る

土地を事業用定期借地で貸しても、土地の所有者は地主です。

したがって、固定資産税等の負担も考慮して地代収入を比較する必要があります。

また、安城市が案内している住宅用地の固定資産税・都市計画税の特例は、住宅の敷地を対象とする制度です。事業用建物だけが建つ土地を、住宅用地と同じ税負担と考えることはできません。

現在住宅が建っている土地を事業用地へ変更する場合などは、土地の固定資産税等がどう変わるか事前確認しておくことが重要です。

長期契約では「借主・途中終了・原状回復」まで確認する

事業用定期借地は長期契約になるため、地代の高さだけで借主を決めないことが重要です。借主の信用力、中途解約や債務不履行時の扱い、建物撤去・原状回復、保証、契約終了後の土地利用まで契約前に確認します。

また、20年・30年の契約になる場合は、現在の所有者だけでなく将来の相続人にも影響します。土地を次世代へ残したい場合でも、契約期間中は自由に使いにくくなるため、家族の利用予定や相続方針まで含めて判断してください。

相談前にあると比較しやすい資料

・固定資産税納税通知書・課税明細書
・登記事項証明書
・公図
・地積測量図、確定測量図
・境界確認書
・現在の賃貸借契約書があればその契約書
・農地の場合は農地関係資料
・過去に企業や土地活用会社から受けた提案書
・相続した土地なら相続関係資料

資料がすべてそろっていなくてもご相談いただけます。

まず所在地とおおよその面積が分かれば、都市計画や道路などから確認を始めることができます。

売却と定期借地を比較するときに整理したいこと

比較するときは、売却した場合の手取り額と、定期借地にした場合の年間手取り・契約期間・借主・中途解約・原状回復条件を同じ条件で並べます。さらに固定資産税、土地利用の制限、将来の自己利用、相続予定まで確認すると判断しやすくなります。

まだ売るか貸すか決めていなくても、所在地・面積・道路・用途地域・現在の利用状況が分かれば、まず比較に必要な条件を整理できます。企業から借地提案を受けている場合は、提示地代だけでなく契約期間や撤退時の条件まで確認してください。

相続・不動産の相談をする

よくある質問

Q.事業用定期借地権は何年間の契約ですか?

原則として10年以上50年未満です。10年以上30年未満と30年以上50年未満では借地借家法上の規定が異なります。契約は公正証書によって行う必要があるため、期間だけでなく契約内容も専門家へ確認してください。

Q.コンビニや店舗に土地を貸す場合は事業用定期借地にできますか?

事業用建物の所有を目的とし、その他の法的要件を満たせば対象になり得ます。ただし、用途地域や開発許可、道路条件などによって店舗を建築できない土地もあるため、土地ごとの確認が必要です。

Q.駐車場として法人に貸す場合も事業用定期借地ですか?

必ずしもそうではありません。事業用定期借地権は事業用建物の所有を目的とする制度です。建物を設けない青空駐車場や資材置場などは別の土地賃貸借として整理する必要があります。

Q.事業用定期借地にすれば固定資産税は借主が払いますか?

土地の固定資産税等は基本的に土地所有者である地主側の負担です。地代を見るときは、固定資産税等を差し引いた実質的な収入で比較する必要があります。

Q.まだ売るか貸すか決めていなくても相談できますか?

できます。むしろ売却を決める前に、売却価格・手取り額と、事業用地として貸した場合の収支や契約期間を比較しておく方が判断しやすくなります。

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参考情報

国土交通省|定期借地権の解説
国土交通省の定期借地権解説

安城市|企業立地推進
安城市の企業立地推進情報

安城市|都市計画情報の閲覧
安城市の都市計画情報を確認する

安城市|住宅用地の特例
安城市の固定資産税・住宅用地特例を確認する

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